マタハラとは|妊娠・出産を理由とした不利益取扱いへの対処法

妊娠を報告したら仕事を外された、産休・育休の取得を申し出たら嫌みを言われた、復職後に降格や給与カットを告げられた——こうした経験は「マタニティハラスメント(マタハラ)」にあたる可能性があります。妊娠・出産・育休取得を理由とする不利益取扱いは、法律で明確に禁止されています。本記事では、マタハラの定義・禁止される不利益取扱いの具体例・対処法を詳しく解説します。


マタハラとは——法律上の定義と根拠

マタニティハラスメントとは、妊娠・出産・育児休業等の取得を理由として、職場において精神的・身体的な嫌がらせをされたり、不利益な取扱いを受けたりすることをいいます。

法律上の根拠は主に以下の2本柱です。

男女雇用機会均等法(均等法)第9条
妊娠・出産・産前産後休業の取得などを理由とする解雇その他の不利益取扱いを禁止しています。また、同法第11条の3では、妊娠・出産等に関するハラスメント(言動)についても、事業主に防止措置を義務付けています。

育児・介護休業法(育介法)第10条・第25条
育児休業・介護休業等の取得を理由とする不利益取扱いを禁止しています。また、育児休業等に関するハラスメントについても事業主に防止措置義務があります(同法第25条)。

2017年1月の法改正により、これらのハラスメント防止措置が全企業に義務付けられました。


禁止される不利益取扱いの具体例

「不利益取扱い」とは、妊娠・出産・育休等の取得を「契機」として行われた、労働者に不利な扱いのことです。具体的には次のようなものが該当します。

解雇・雇止め

妊娠・出産・育休取得を理由とする解雇は原則として無効です(均等法第9条第3項)。有期雇用労働者の場合も、妊娠・出産を理由とする雇止めは違法になりえます。

降格・職種変更・配置転換

産休・育休からの復職後に職位・職種・勤務地を不利に変更することは、合理的な理由がない限り不利益取扱いに該当します。最高裁判所は2014年の判決(広島中央保健生協事件)において、妊娠中の副主任からの降格は均等法に違反し原則として無効と判示しました。

減給・賞与の削減

産休・育休中の期間を評価対象から完全に除外し、給与や賞与を不当に減額することも不利益取扱いになりえます。なお、産前産後休業中は健康保険から出産手当金(標準報酬日額の3分の2)が支給され、育休中は雇用保険から育児休業給付金(休業開始時賃金の最初の180日間67%、以降50%)が支給されます。

ハラスメント言動

不利益な処遇だけでなく、以下のような言動もマタハラに該当します。

  • 「妊娠するなら辞めてほしかった」「迷惑だ」などの発言
  • 育休取得を申し出たら「そんな権利はない」と言われる
  • 職場での無視・孤立化
  • 復職後に「子育て中は仕事が続かない」などの繰り返しの発言

マタハラを受けたときの対処法

ステップ1:証拠を確保する

被害を申告・請求するうえで証拠は不可欠です。以下の点を記録・保全してください。

  • ハラスメント言動の記録:日時・場所・発言者・内容を具体的にメモする
  • 録音:繰り返し行われる言動はスマートフォンで録音する
  • 書面・メール・チャットの保存:降格・配置転換の通知、不利益取扱いに関するやり取りを保存する
  • 診断書:精神的ダメージでうつ病・適応障害等を発症した場合は医師の診断書を取得する
  • 妊娠・産休・育休の申告記録:いつ、誰に、どのように申告したかを記録する

ステップ2:会社への申告

社内のハラスメント相談窓口・人事部門・または直属の上司の上位管理者に申告します。

申告したことを理由とする不利益取扱い(報復)も違法です(均等法第17条第2項、育介法第52条の4第2項)。相談・申告は書面で行い、会社側の対応内容・日時をすべて記録してください。

ステップ3:外部機関への相談・申告

会社の対応が不十分な場合は、次の機関を活用してください。

都道府県労働局雇用環境・均等部(室)
均等法・育介法に基づくハラスメントの相談・申告を受け付けています。調停(あっせん)手続きを通じて、費用をかけずに解決を図ることもできます。

総合労働相談コーナー
各都道府県の労働局・労働基準監督署内に設置されており、幅広い労働問題を無料で相談できます。

法テラス
収入要件を満たす方は弁護士費用の立替制度が利用できます。


請求できる損害賠償と権利回復

不利益取扱いの無効確認と原職復帰

違法な降格・配置転換は無効と認められれば、元の職位・職種への復帰を求めることができます。また、不当解雇の場合は解雇の無効を主張し、雇用継続(復職)と未払い賃金の支払いを請求できます。

損害賠償請求

不利益取扱いやハラスメント言動によって被った損害について、加害者個人および会社に対して損害賠償を請求できます。

  • 慰謝料(精神的苦痛に対する賠償)
  • 差額賃金(降格・減給によって減少した賃金)
  • 休業損害(精神疾患による就労不能期間の収入)

請求根拠は不法行為(民法第709条)、使用者責任(民法第715条)、安全配慮義務違反(労働契約法第5条)です。

時効

  • 不法行為に基づく損害賠償:損害・加害者を知った時から3年(民法第724条第1号)
  • 安全配慮義務違反(債務不履行):権利行使できると知った時から5年(民法第166条第1項第1号)

育休・産休に関する主な制度と期間

知っておきたい制度の概要を整理します。

産前休業(均等法第65条第1項)
出産予定日の6週間前(多胎妊娠は14週間前)から、本人が請求すれば取得できます。

産後休業(均等法第65条第2項)
出産の翌日から8週間は就業させることができません(原則として強制休業)。6週間経過後は、本人の請求と医師の許可があれば就業できます。

育児休業(育介法第5条)
原則として子が1歳(保育所に入れない等の事情があれば最長2歳)になるまで取得できます。

産後パパ育休(出生時育児休業)(育介法第9条の2)
2022年10月に創設された制度で、子の出生後8週間以内に4週間まで、2回に分割して取得できます。


弁護士に相談するメリット

マタハラ被害の解決において、弁護士への相談は有力な選択肢です。

不利益取扱いの違法性判断
降格・配置転換・賞与削減などが法律上の「不利益取扱い」に該当するかどうかを正確に判断します。「業務上の必要性があった」という会社側の主張に対して、法的に反論できる根拠を整理します。

損害賠償額の算定
慰謝料・差額賃金・休業損害など、請求できる損害の全体像を把握して適切な金額を算定します。

会社との交渉・労働審判
会社に対する書面交渉から、労働審判・訴訟まで、代理人として対応します。特に復職・職位回復を求める場合は、早期に弁護士に依頼することで有利に交渉を進められます。

ハラスメント言動の評価
「これはマタハラになるのか」という疑問に対し、具体的な言動が法律上どのように評価されるかを説明します。


まとめ

妊娠・出産・育休取得を理由とするハラスメントや不利益取扱いは、法律で明確に禁止されています。一人で我慢せず、記録を残しながら社内外の相談窓口・弁護士を活用することが解決への道です。

ポイント 内容
主な根拠法 均等法第9条・第11条の3、育介法第10条・第25条
不利益取扱いの例 解雇・降格・減給・配置転換・雇止め
ハラスメント言動 「迷惑だ」等の発言・無視・孤立化
産休期間 産前6週+産後8週(強制)
育休期間 子が原則1歳になるまで(最長2歳)
損害賠償の時効 不法行為:3年、債務不履行:5年

証拠が少なくても、弁護士に相談することで有効な対処法が見つかる場合があります。まずは一歩踏み出して専門家に話を聞いてもらうことをお勧めします。